ようやく 私を離した奏斗と 

ロビーのソファに 並んで 座って。


奏斗は 私を 逃がさないと いうように

私の手を ギュッと 握っている。


「どうして ここにいるの?」

涙を拭った奏斗に 私が 聞くと

「それは 俺が 聞きたいよ。」

と 奏斗は 小さく笑った。


「昨夜 葉月の事務所の所長が 連絡くれて。葉月が マレーシアにいるって言うから。俺 そのまま 羽田に言って 深夜便に 乗ったんだ。」

「今朝 着いたの?」

私は どうでもいいことを 聞いてしまう。

私だって 突然の奏斗に 動揺している。


「葉月 多分 ここに泊まっていると思って。空港から まっすぐ ここに来たけど。もし 葉月が 泊まってなかったら クアラルンプール中の ホテルを 当たって 探すつもりだった。」

「どうして?」

「葉月が 心配だったから。俺 このまま 葉月が いなくなったらって思って。気が変になりそうだった。」

「所長には 今週いっぱい 休むって言ったんだから。来週になれば 戻るって思わなかった?」

奏斗は 黙って もう一度 私を抱き締めた。

私の心は まだ 素直に 奏斗を 受け入れられなくて。


「奏斗 チェックインしたの?」

「まだ…今朝 ここに来て フロントで聞いたら 葉月 泊まっているって言うから。俺 ホッとして。呼んでもらったんだけど 葉月 出かけた後で。だから 戻ってくると思って ここで 待っていたんだ。」

「じゃ 私の部屋に 泊まる?」

ロビーで話していても 落ち着かないし。

奏斗が ここにいる以上 私は もう逃げられない。

「いいの?」

私が頷くと 奏斗は 立ち上がった。


奏斗が 私の手を 離してくれないから。

2人で フロントに行って 

奏斗の チェックインをして。


「奏斗 荷物は?」

スーツ姿で ビジネスバッグ一つの奏斗。

奏斗は 恥ずかしそうに 首を振って言う。

「とりあえず パスポートだけ 取りに帰って。そのまま 飛行機に 乗ったから。」


私は 奏斗に 手を握られたまま

エレベーターに乗った。