タクシーが 街に入った頃 降り出した雨は

ホテルに着いた時には 土砂降りになっていて。


バケツを逆さにしたような 雨の中

タクシーを 降りる私は 

「気をつけて。」と 

ドライバーに 声をかける。

中華系のドライバーは

笑顔で 私を 見送ってくれた。


丁寧な ドアマンに 小さく会釈して

私が ホテルに入ると


「葉月!」

どこからか 私を呼ぶ声が 聞こえた。

立ち止って 辺りを 見回す私。

「葉月。」

ロビーのソファから 立ち上がった 奏斗が

私の名前を 呼びながら 駆け寄って来た。

「奏斗…」


一瞬 状況が 理解できなくて

私は ぼんやりと 立ち尽くす。


「葉月…」

近付いた奏斗は いきなり 私を 抱き締めた。


「葉月。よかった…会えて…葉月…」

私を 抱き締めたまま 奏斗は 泣いている。

「奏斗…どうして?」

私の心は 現実に 付いていけないまま

奏斗に 抱き付くことも できなくて。


「葉月…心配したんだ。ごめん…俺が 悪かった。本当に ゴメン…」

奏斗は しゃくり上げながら 

私の頭の上で 何度も 謝っていた。