× × ×



「ひぃ……ぇっ」

「おい、あからさまにドン引きすんじゃねえよ。傷つくだろうが」

「だ、だって! 思ってた10倍はグロテスクだったのっ」

「俺はちゃんと言ったぞ、見れたもんじゃねえって。それでもいいってちとせが言ったんだろ、ほら、責任とれって」



任せた、と言って真弓は私に新しいガーゼと包帯を渡してくる。

受けとったはいいものの、真弓の体の傷を再び直視すると、うっと心にくるものがある。



真弓が目を覚まして、数日が慌ただしく過ぎ去った。

意識も思考もはっきりしているけれど、真弓がこの前の〈白〉との抗争、そして今回のことで負った傷はあまりにも酷く、特別に真弓を診てくれている北川のかかりつけ医からしばらくの安静を命じられている。


『下手に動くと後遺症が残るので』とかなり厳しい口調で言いつけられていた。


そんなわけで、真弓はこのベッドの上で傷が癒えるまでじっと過ごすことになったの。



これほどの怪我を負っているなら、本当はもっと設備の整った大きな病院に入院するべきなのだけど……。

真弓は〈薔薇区〉に入れられた時に、〈外〉での戸籍を失っている。

つまり、ここでは本城真弓は存在しない人間、ということになっていて、正規のルートでは医療を受けることができないのだという。



この病室は、北川のツテで秘密裏に用意してもらったもの。

だけど、この数日の間に変わったこともあった。


私は唯月くんと一緒に、お父様のところに出向いて、今回のこと、真弓のことをすべて打ち明けたの。

すると、お父様は意外にもすんなり受け入れてくれて、お母様の知り合いが真弓を養子にし、これから真弓がここで暮らしていくために必要な行政上の手続きを行ってくれることになっている。



失ったものが、少しずつ真弓の手元へと帰ってくる。

まだまだスタートラインに立ったばかりだけれど、たしかに前へと進んでいることを感じたのだった。