その背中に向かってさよならを飛ばしたが、返事はない。
俺もサイダーを飲み干して、その場をあとにする。
いっちにっ、さーんしっ、という掛け声が近付いてきたと思ったら、列をなした運動部の群れがビバーチェな足音で横切る。
ピッ、という笛が体育館の方向から聞こえ、ドタバタ、キュッキュッ、というシューズと床のデュエットが始まる。
ぽわぁあん、とトロンボーンの滑らかなグリッサンドが鳴り、ぴーっ、と甲高いクラリネットのB♭が校舎中に響く。
『つまりさ、俺は愛莉のこと……』
その続きを言わせてくれない彼女。
なかなかの強者《つわもの》だ。
俺の誘いにも乗らないし、みんな大好き王子様スマイルにも無反応。
振り向いてもらえないなら、
強制的に、
振り向かせるしかないよね。
早く彼女の音を手に入れたい。
雑音だらけの日常に、早くその音色を響かせて欲しい。
サァ……と秋風が頬を撫で、暑いと涼しいの中間的な感覚に浸された。
揺れた草木は、ドの音だった。

