そう思って近づいてみれば、さらに彼女の最高な魅力を発見する。
夏祭りのあと。
愛莉が襲われそうになっていたところを助けた、あの日。
『そばに、いさせて』
そう呟いた愛莉の声は、美しかった。
俺は昔から、音に敏感だ。
音楽一筋の母親の血を引いたのだろうか。
絶対音感、っていうやつがある。
例えば誰かが「あっ」と叫べば、その音程がドなのかソなのか勝手に頭で変換される。
人の話し声も、鳥のさえずりも、物の落下音も、ドアの開閉音も、時計の秒針の音も、
どんな些細な音でも頭に響いてしまう。
特に人の声。
俺の中では、声でその人の印象が決まると言っても過言ではない。
ずっと聞いていられる心地よい声の持ち主もいれば、不協和音すぎて耳を塞ぎたくなる声を出す人もいる。
あのとき発せられた愛莉の音は、
無防備で、丸裸で、綺麗な、音《こえ》だった。
偽りのないそれは、
仮面を被った偽りだらけの俺を、
刺激した。

