「ふわ……」
小さくあくびをして、寝癖がついてしまった前髪をさっとかきあげる。
気がつけばいつのまにか5時間目の授業が終わりそうになっていた。
黒板の端から端まで白い炭酸カルシウムの粉が数字や記号を描いている。
すると廊下で少しの騒音がして目をやる。
体育の授業が早めに終わったらしい生徒たちがゾロゾロとやってくるのが見えた。
その中の一人と、ばっちり目が合う。
俺は嬉しくて、微笑みかける。
すると愛莉は、隣にいるハナの肩を叩く。
俺に気づいたハナは屈託ない笑顔を向ける。
だから俺も王子様スマイルで返す。
その様子を眺めていた愛莉は少しだけ頬を緩める。
愛莉が微笑んだのを見て、満足する俺。
いつもこの流れ。
ほんの一瞬。
時間にすれば数秒もないけど。
この一連のやりとりで、気づかないわけがない。
愛莉はハナの背中を押している。
たぶん、ハナは俺が好きだから。
でも俺は、ハナじゃだめだ。
俺が今、欲しいのは……

