「うおっ、びびった」
「師匠、昨日借りてた参考書返します。ありがとうございました」
こんなやつ弟子にした覚えはない。
という本心は包み隠し、王子様スマイルと呼ばれているらしいマスクで顔面を覆う。
「わざわざありがとう。しょーでいいよ?」
「いえ、滅相もない。学問の神様にそんな」
昨日貸したばかりの参考書をもう読破したらしい俺の弟子とやらは、たかが“し”の1文字も抜きたくないそうだ。
深々とお辞儀をして、すうっと音もなく席へ戻っていった。
「あいつ、いかにもガリ勉って感じだよな。んな頭モサモサでダセェし超重そうなメガネかけてさぁ、モテなさそー」
隣で見ていた金髪くんがしみじみと言う。
確かにね。
あんなんじゃ永遠に童貞だと思うよ。
「まあ、勉強熱心でいいと思うよ?」
なんて、神様らしく優しいコメントをしておく。
「うっわ、やっぱお前すっげーいいやつ!でも絶対成績トップの座は譲らねーよな!」

