「大丈夫か」
「うん、もう大丈夫」
そう言ってつらそうに微笑んだ愛莉。
全然大丈夫じゃない。
「無理するな。つらいならちゃんと、つらいって言え。今の愛莉、崩れてしまいそうだ」
愛莉は少しびっくりして、今度はくすくすっと笑う。
「うふふっ、心配してくれてるの?」
「……そうだけど」
何がおかしいのかわからず、少し戸惑う。
「ありがとう、そら」
本当にもう大丈夫だから、と言って目を細める彼女は、いつもどおりの柔らかい表情だった。
「じゃあ、また」
「うん。おやすみなさい」
愛莉の家の前で別れを告げ、自分の家へと足を運ぶ。
早く帰りたいと一度も思ったことのない、
嫌いな我が家へ。
ガチャ。
重たいドアを開けて玄関に入る。
できるだけ音を立てないよう靴を脱ぎ、リビングの灯りがうっすら漏れる廊下を早足に通り過ぎる。
ただいまなんて、言わない。
おかえりなんて、いらない。

