胸元に、温かな彼女の存在を感じる。
「ど、どうした?」
背中に手を回され、
ぎゅっと強く抱き締められる。
まるで、
「離さない」
とでも言いたいような。
「しばらく、こうさせて」
その声は優しくて、
甘くて、切ないように、
感じた。
「……うん」
こうしなければ、崩れ落ちてしまいそうなくらい、儚い声。
今までこんな愛莉は一度も見たことがなかった。
いつもしっかりしていて、周りに流されず、自分を持っていて、凛とした彼女。
幼い頃から勉強も習い事も何でもそつなくこなし、周りからひと目置かれる存在だった。
加えて美人だからか、よく妬まれては陰口を叩かれることもしばしば。
しかしそれを知っていても、平然として気にもとめていないような振る舞いだった。
そんな愛莉を幼いながらもすごいと思っていたし、今でも尊敬している。
強くて、誰に頼らなくても生きていけそうとさえ、思っていた。

