最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

〝SHINDOU〟は海外にも進出している大手家具ブランドで、ネージュ・バリエが手がける広告はスタイリッシュで興味を惹くと業界内で高く評価されている。こちらとしても見習いたい部分が多い。

にもかかわらず、久礼さんは決して鼻を高くしない。「SHINDOUのイメージを下げないように皆で必死になってるよ」なんて笑っている。

そして、素直に相手を褒めてくれる人だ。


「畔上はデザインの知識もあるし、大胆かつ確実に利益を出す経営戦略も次々打ち出しているだろ。さらに結婚もしたとなれば、また新しい考えが生まれたりする。今後がますます楽しみだよ」


〝結婚〟の二文字にピクリと反応した俺は、頭の片隅に押し込めていた一絵の顔を蘇らせ、傾けていたグラスを静かに置いた。

久礼さんはだいぶ年下の幼なじみの女性と、長年の想いを実らせて結婚したらしい。順風満帆なのは間違いなく彼のほうだ。


「久礼家は絵に描いたような幸せな家庭ですよね。お子さん、おいくつでしたっけ」
「今、二歳。これがめちゃくちゃ可愛いんだよ。嫁にそっくりで」


家族の話になると途端に顔の締まりがなくなるので、思わず笑ってしまった。