最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

一直線に向かってくるので、私は目を見開く。無意識に背筋を伸ばして凝視していると、彼は私の目の前に来て「一絵」と呼んだ。


「今夜は七時前には帰れそうだ。夕飯は一緒に食べよう」


いつもならスマホでやり取りするだけの、なんてことない連絡。違うのは、〝一緒に食べよう〟というひとことがついていること。

それに、わざわざ私のところに来て伝えるのは初めてだ。そもそも、プライベートな用事のためにオフィスで話しかけられた経験はほとんどない。

私にとっての異常事態に驚くも、とりあえずぎこちなくうなずく。


「は、はい……!」
「じゃあ」


慧さんはそれだけ告げて踵を返した。終始笑顔もなかったし、特に意味はないのかもしれないが、珍しい彼の行動に胸が高鳴り始める。

ただ話しかけられただけなのに、こんなに喜んでいるって変だよね。でも、なんかちょっと夫婦っぽいやり取りができたから……顔がニヤける。

口元に手を当てて隠す私の後ろで、様子を観察していたらしい男女ふたりが、「しゃべったよ、あの夫婦」と奇妙なものを見たような調子でつぶやいていた。