最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

この窓際の席が好きな理由のひとつは、社長席がよく見えるからだ。慧さんだけは中央辺りに固定席があり、周りを見渡せる配置になっている。

今そこには、瀬在さんと話している慧さんがいた。彼を見た途端、我を忘れるくらいに抱き合った夜を思い出して、恥ずかしいやら気まずいやらで胸が騒がしくなる。

にもかかわらず、仕事モードのきりりとした表情や、仕草のひとつひとつが魅力的でつい目で追ってしまう。

慧さん、午前中はずっと出かけていたけれど、もう用事は済んだのだろうか。

彼は社長になってからいつも忙しくしていて、デスクに座っている姿はあまり見ない。ちゃんとお昼ご飯は食べたのかな……。

ふたりの様子を眺めながらなんとなく考えていて、ふと気づく。私は本当に彼のことを知らないんだと。

昼も夜も、頼まれたときだけお弁当や夕食を作っていて、それ以外はどこで誰と食事しているのかわからないし、彼の一日の予定も把握していない。そこに踏み込むのすらもためらわれたから。

一緒に暮らしているのに他人の壁を越えていなくて、やはり夫婦とは呼べない関係だと改めて実感する。