最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

増田の声を聞いて一瞬静かになった周囲が、この発言で一気にざわつき始めた。

……ああ、どうやらこの男は俺を貶める方法を変えたらしい。

色弱のことは、きっと菫から聞いたんだな。それは仕方ないが、この場で社員にバラすとは、まったく面倒なことをしてくれる。

瀬在は絶句して目を見開き、そばにいた高海は唖然として「社長が、色弱者……?」と呟いた。

オフィス内がざわめく中、増田は卑しい笑みをわずかに浮かべる。


「ダメじゃないですか、せめて奥様には本当のことを言わないと。だから、代わりに僕が教えておいてあげました。だいぶショックを受けていましたよ」


──そのひとことで、こめかみの辺りがドクンと脈打つのを感じた。

言ったのか? 一絵に……。あのとき泣いていたのはそのせいか。

俺の事情を知って悩み、どうしていいかわからなかったに違いない。他人から又聞きしたのは、よりショックだっただろう。

皆に色弱を暴露されたことよりも、故意に彼女を苦しませようとしたことに怒りが湧き上がる。

瀬在も憤りを必死に堪えている形相で、「部長……」と呟いた。睨みつける俺に構わず、増田は飄々と挑発を続ける。