「それなら手は打ってあるから大丈夫だ。ご忠告どうも」
端的に礼を言い、革靴を鳴らして彼女の横を通り過ぎる。しかし、SNSの件を思い出して足を止めた。
「菫」
声をかけると、彼女が静かに振り向く。
〝一絵に汚名を着せるようなマネをしたのは君なのか〟と喉元まで出かかったが、証拠もないのに責めることはできない。
思い止まった俺は「……いや、なんでもない」と言い、踵を返そうとした。すると、今度は彼女のほうから声が投げられる。
「ごめんなさい、慧」
声と同じく重く沈んだ表情の彼女を見て、複雑な心境になる。
今の謝罪には、様々な意味が込められているように感じた。色弱を受け入れられなかった過去のこと、SNSと今回の増田の件。すべてに対して申し訳なく思っているのではないかと。
なにも返せずに黙っていると、菫はどこかへ舞っていってしまいそうな、儚げな笑みを浮かべる。
「安心して。もうあなたにも、奥さんにも会うことはないから」
彼女は意味深な言葉を残し、長い髪をなびかせて俺の横をすり抜けていく。
そこにどんな思いが秘められているのかはわからないが、深追いする気もなく、俺は去っていく彼女をただ見つめていた。
端的に礼を言い、革靴を鳴らして彼女の横を通り過ぎる。しかし、SNSの件を思い出して足を止めた。
「菫」
声をかけると、彼女が静かに振り向く。
〝一絵に汚名を着せるようなマネをしたのは君なのか〟と喉元まで出かかったが、証拠もないのに責めることはできない。
思い止まった俺は「……いや、なんでもない」と言い、踵を返そうとした。すると、今度は彼女のほうから声が投げられる。
「ごめんなさい、慧」
声と同じく重く沈んだ表情の彼女を見て、複雑な心境になる。
今の謝罪には、様々な意味が込められているように感じた。色弱を受け入れられなかった過去のこと、SNSと今回の増田の件。すべてに対して申し訳なく思っているのではないかと。
なにも返せずに黙っていると、菫はどこかへ舞っていってしまいそうな、儚げな笑みを浮かべる。
「安心して。もうあなたにも、奥さんにも会うことはないから」
彼女は意味深な言葉を残し、長い髪をなびかせて俺の横をすり抜けていく。
そこにどんな思いが秘められているのかはわからないが、深追いする気もなく、俺は去っていく彼女をただ見つめていた。



