最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました～トツキトオカの切愛夫婦事情～

キョロキョロしていた彼女は、俺に気づいて目を見開く。苦い過去が蘇ってきて胸がざわめくが、彼女はなんだか焦っている様子でこちらに近づいてきた。


「慧！　ちょうどよかった……あなたに忠告しておきたいことがあって」


久々に会ったというのに、それを感じさせない調子で話しかけてくる。どうやら、緊急の用事らしい。


「あなたの会社に増田って男がいるでしょう。あの人、なにか悪巧みしているみたいなの。慧を貶めることをするかもしれないから、気をつけて」


話の内容は俺たちも危惧していることだったが、増田は菫に漏らしていたようだ。それをわざわざ伝えに来るほどだ、近々行動に移そうとしているのかもしれない。

一応ふたりの関係を知らない体で聞いてみる。


「どうして菫が増田部長のことを？」
「……付き合ってるの、一応ね。私と慧が大学時代に親しくしていたことを知られて、それからますますあなたを敵視してる。だから心配なのよ……慧も、彼も」


眉を八の字にして言う菫は、心底憂いている様子だ。そりゃあ、愛する人に悪い行いはしてほしくないだろうな。

増田が今になって動き出したのは、俺たちの過去を知ってさらに恨みを募らせたせいだったのか。いろいろと腑に落ちて小さく頷いた。