最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

菫とのことは、俺の中では完全に終わっていて、赤の他人も同然だ。一絵にとっても、知って得することなどなにもない。

だから、最初に菫の名を出されたときは知らないフリをしたのだが、今となっては後悔している。たとえなんの関係がなくても、大切な妻に嘘をついた罪悪感は日に日に濃くなるばかりだった。


そうして一絵が産休に入る前日、俺は出張だったが、労いと謝罪の意味も込めて花を贈ろうと決めた。

滅多に入らない花屋でひとしきり悩み、結局自分の目に一番綺麗に映ったものを選んだ。出張から帰ったら、あの日きつく当たってしまったことを詫びよう。

そう決意して帰宅したのもつかの間、彼女はなぜか涙をこぼすものだから、ひどく焦り、困惑した。

感激して泣いているようにはとても見えない。いてもたってもいられず抱きしめると、背中にしっかりと手を回されて、俺とのケンカが尾を引いているとも思い難かった。

こんなに泣くほど、一体なにが彼女を苦しめている?

一絵からは明確な答えは返ってこず、どうしたらいいのかもわからなくて、俺はただただ身重の彼女を包み込むことしかできなかった。