最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

菫は大学時代、一応彼女という存在だった。周りにけしかけられて試しに付き合ってみたという感じの、友達の延長線上のような関係だったが。

彼女は賢い人で器量もよく、難しい話にもついてきてくれるので気が合った。

数カ月健全な付き合いを続け、信頼関係が築けてきた頃に、色弱のことも話してみようと考えるようになった。それを理解してもらえたら、もっと仲を深められるんじゃないかと。

──そうして打ち明けた結果は、真逆の展開。

菫は、自分と違うものを受け入れることができなかったらしい。まるで体内に異物が侵入してきたかのように、俺を拒絶する反応を見せ始めたのだ。


『慧と一緒にいると、どうしてもちょっと気味が悪く感じることがあって……怖いの』


彼女が友人に向かって相談しているのを偶然耳にしたとき、湧いてきたのは怒りでも悲しみでもなく、〝やっぱりそうか〟と諦めに似た気持ちだった。

おそらく俺が色を間違えたり、とぼけた行動をしたりするのが奇妙に感じたのだろう。

それは致し方ないことで、多少の悔しさはあったが別に菫を恨んでもいない。ただ、これがきっかけで女性関係は面倒になったし、他人に色弱であることを告白するには、ある程度の勇気が必要になった。