今から約二年前、俺がまだマーケティング部長だった頃。

松岡社長から誘われた一対一の食事会の席で、『君がジョインプレッションの社長になったら、やりたいことはあるかい?』と問われた。

それまでも何度か経営戦略についての議論は交わしていたし、今回も高級料亭にサシで連れてこられた意図はなんとなく察していたが、この質問で確信した。彼は俺を社長にしたいのだと。

松岡社長はとても視野が広く、考え方にも柔軟性がある。尊敬できる彼に期待されるのは光栄なことだ。

俺自身、自分が上に立ったらこうするのにと考えていた部分は多々あり、挑戦したい気持ちもあったので、腹を割って正直に述べた。

まずは厳しくなりつつある経営を立て直すことが第一だったが、それは最低限の目標であり、俺の夢はまた別のところにある。

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「私の目標は、ジョインプレッションが担うすべての広告を、色弱者に配慮したデザインで制作することです。将来的にはエムベーシック全体、アプリゲーム事業でも適用していただけるよう働きかけたいですね」


大きな理想を口にすると、豪勢な海鮮料理が並ぶテーブルの向かいに座る松岡社長が、目を丸くして頷く。