そう、私が一番つらいのはそれなのだ。慧さんの苦しみを、色弱の世界を完全にわかってあげられないこと。

同じ色で見えていると思っていた景色が実は違っていたのだと知って、正直ショックだった。どうして教えてくれないのか、裏切られたような気持ちもあった。

でも彼が私に打ち明けないのは、彼なりの理由があるからだと、今なら思える。私が信頼しなくてどうするんだ。


「皆、多かれ少なかれ悩みも悲しいこともあるし、その人の考えや苦しみはその人でなければわからない。菫さんが『私のつらさなんてわかりっこない』と言ったのは、その通りだと思います」


だけど、慧さんにも菫さんにも、寄り添うことはできるはず。離婚届を差し出したあのときの自分のように、向き合う努力もせず逃げたりなどはしたくない。


「だから私は、理解しようとすることを諦めない」


固い地面についた手をぎゅっと握り、自分自身に力強く誓う。そして、懇願するように菫さんをまっすぐ見つめる。


「菫さんも、生きることを諦めないで」


見開いていた彼女の瞳に光が差し込み、まつ毛についた雫がきらりと輝いた。