最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

立ったまま返事をする慧さんは、やはり事態を把握しているようだが表情は変わらない。そんな彼に、高海は深く頭を下げた。


「疑わしい行動を取って申し訳ありませんでした。彼女とは偶然あの場で会っただけで、なにもやましいことはありません。書かれていることは事実無根です」


彼は物怖じせず、きっぱりと言い切った。私は内心ハラハラしてしまう。

オフィスがしんと静まり返る中、感情を読み取れない眼差しで彼を見つめていた慧さんが口を開く。


「もちろんわかっている。妻も君も、安易に不道徳なことをするような人間だとは思っていない」


落ち着き払った声が聞こえ、私も高海も目を見張った。慧さん、私たちを信じてくれているんだ……。

それでも、いくらかは不機嫌なのだろう。やや棘のある声色に変わって、オフィス全体に届かせるように言い放つ。


「自分の身元もさらせない奴の、信頼性のない情報を間に受けるのは愚かだ。君たちも、踊らされるだけ時間の無駄だぞ」


厳しさをひしひしと感じる鋭い瞳が周りの社員に向けられ、皆がギクリとして背筋を伸ばすのがわかった。