のんびりと時間を過ごしたあと、また会う約束をして別れた。
菫さんはとてもいい人で、話していると私に足りない気品を与えてもらえるようで癒された。
しかし、別れたあとで思い返すと、やっぱりあのときの様子の変化が気になってくる。赤ちゃんの名前について話しただけで、特に変なことは言っていないはずなのに……。
そう考えていて、ふと頭に過ぎった。もしかして、赤ちゃんではなく慧さんの名前に反応したんじゃないかと。
まさか、ふたりは知り合い?というひとつの可能性が浮かび、帰宅した彼になにげなく問いかけてみる。
「あの慧さん、小宮山 菫さんっていう人を知ってますか?」
リビングのソファにバッグを置き、スーツのジャケットを脱いでいた彼は、ぴたりと動きを止めた。
キッチンにいる私からは横顔しか見えず、表情はしっかりとわからないけれど、心当たりがありそうだなと感じた。



