最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

「まあ、男女には他人にはわからない事情や苦労があるわよね。かく言う私も、離婚まではいかないけど、この人と本当に結婚してよかったのかしら?って悩むこともあったし」


結子さんにもそういう時期があったのか。共感してもらえると、少し心が軽くなる。

彼女はおもむろにこちらに歩み寄り、真剣な顔で私の両手をぎゅっと握る。


「一絵ちゃん、もしなにかあったらすぐ連絡するのよ。弟の悪行はSNSで制裁するから。私の数十万人のフォロワーは、皆あなたの味方よ」
「どっちがゲスなんだか」


すかさず慧さんが、口の端を引きつらせてツッコんだ。私も苦笑するしかない。

人気モデルの力をひしひしと感じさせる彼女だが、表情を優しく緩めて「でもね」と続ける。


「慧はわりと子供が好きなんだと思う。昔は絵本作家になりたかったくらいだもんね」
「えっ、そうなんですか?」


初めて聞く事実に、私は目を丸くした。慧さんの昔の夢が絵本作家だったなんて、意外すぎる。

「また余計なことを……」とぼやく彼にかまわず、結子さんは頼もしい笑みを浮かべて言う。


「私の子供とも楽しそうに遊んでくれてるし、なかなかいいパパになると思うわよ。育児はひとりでがんばらないで、慧にもできそうなことはどんどん任せちゃいなさい」