最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~

「あのとき絵が下手だって知られちゃったから、なんとなく肩身が狭かったんですけど、慧さんも料理が苦手なことが発覚したのでおあいこですね」


ちょっぴりいたずらっぽく口角を上げると、肘をついて片手で頭を支えている彼が、負けじと意地悪そうに目を細める。


「俺の料理は君の馬ヅラ猫よりはマシだろう」
「……〝どんぐりの背比べ〟って言うんですよ、それ」


私が目を据わらせてツッコみ、一瞬沈黙したあと、お互いにぷっと噴き出した。低レベルな争いすぎて笑える。

でも、昼間に瀬在さんと話したように、慧さんの弱い部分がまだあるなら見せてほしいと思う。もっと私を頼ってほしいって。

結婚した当初に比べると、だいぶ柔らかな雰囲気になった彼の瞳を見つめて伝える。


「私、どんな慧さんでも受け入れますから。もっと甘えてくださいね」


真顔になった彼は、安堵したようにその表情を緩める。肩につくくらいの長さになった私の髪を撫で、「ありがとう」と言った。

そして徐々に瞳に力が宿り、なにかを決意した様子に変わる。