その日は、午前中で部活が終わるとすぐに、忠晴のお迎えで帰宅する。

母さんに「急いで!」と急かされて、せかせかと準備を始めた。

母さんのデパートで打ち出したメンズラインのオーダースーツを身に纏い、髪も軽くセットしたぐらいにしといて。

親父の代わりに参加するってのも、楽じゃない。


「…おぉー伶士、イイ男だよー。オトナ!」


…兄貴もいるけどね。

すでに準備が終わってよそ行きの出で立ちとなっていた兄貴は、俺のおめかしした姿に、能天気に拍手をしている。

兄貴は、スーツ着慣れてるからか、俺なんかよりずっとオトナの男になってて、様になっているよ。



そして、あっという間に時間になり、家族三人で我が家のリムジンに乗り込む。

この間とは違うリムジンに。バッハだ。


「いやぁー。麗華に会えるから嬉しいなっと」


そう呟いて窓の外の景色を見る兄貴は、ご機嫌だ。

「…大学でも会ってんじゃないの」

「麗華には何回でも会いたいの」

「あらあら。頼智はホント麗華さん大好きね?」

嫌われてるくせに…。



そんな兄貴を乗せて、リムジンは会場へと向かう。



…しかし、そんな悠長なことを言っていられるのは今のうちと言いたくなるぐらいの出来事が、会場では待っているのだった。