「…そういうワケでの」



そう言って、川村は立ち上がる。

スカートをほろってシワを直しながら。



「伶士殿、私をさっきのラグジュアリーでキュンですなおトイレまで案内してくれ」

「は?トイレなら階段降りてすぐ…」

「わっち、方向オンチなのよ。ほら水口パイセンが『迷子になるなよ』ってたじゃんか。この広さ、たぶん下に降りたらもうここには戻れん」

「そこまでかよ。わかったわかった」

喋り方といい、トイレに連れてけとはおまえはおばあちゃんか。



そうして、特に何も気に留めず、何も警戒せずに川村と一緒に部屋を出る。

「こっち」と、川村を手招いて先を歩いた。



(…あっ)



ふと思ったが。

みんなのいないここで、こっそり川村に聞いてみたらどうか。

なずなのこと。



…だなんて、ちょっとフェアではないことを思い付いてしまう。

返事待ちのスタンスではあるけど、気になるっちゃ気になる。



…だが、話というものは。

時にはその想像を越えることもあるもんだ。



「伶士殿」

「ん?何」

「…伶士殿は、なずぽが陰陽師だということを知ってるのか?」