「では、社長。行ってきます」
すでにエンジンのかかったハイエースの前で、菩提さんは親父に頭を下げる。
「菩提、頼んだぞ。俺はこのホテルにいるから、事が終わったら連絡をくれ。忠晴に迎えに行かせる」
「はい。お任せ下さい。…伶士くん、助手席に乗って」
「は、はい!」
そう言って、菩提さんは運転席の方へと回り込んで行った。
俺も指示通りに助手席に乗ろうとしたが。
…その前に、ひとつやっておくべきかと、後ろを振り向く。
お見送りをしている、親父の方へ。
「…親父」
「ん?」
「…さっきは、ごめん」
「………」
…あの時は邪魔されたくなくて、必死で。
当たり前だけど、本当は『殺すぞ』なんざ思っちゃいない。
申し訳ない…。
親父は、余計な事は何も言わず。
フッと柔らかく笑っていて。
俺の顔を見て、黙って頷いていた。
「…気をつけて行って来い」
「はい」
「あー!親父、ホッとしてるしょ?喜んでるしょ?伶士に嫌われてなくてよかったって!泣きそうー!」
「…余計なこと言わんでいい!」



