「…けど、また迎えに来るよ?『夢殿』」
巻き起こる風は、やがて激しく渦を巻いていき、彼の身体を丸ごと包み始める。
いつの間にかその周辺、離れた俺達の場所の方へも風が吹き荒れ始めた。
逃げる…?!
やはり、それは想像通りで。
風が止んで静寂が訪れた頃には、彼の姿はもうなかった。
本当に、撤退したのか…?
(………)
だが、目の前の光景や、辺りの空気が落ち着いていると思うと、悶着は終わったのだと悟る。
すると、体の力がフッと抜けて、ズシッと重くなった。
どっと疲れたような…。
…だが、ここでの悶着は終わったかもしれないが。
俺にはまだ、やるべき事がある。
(なずなを…)
なずなを、病院に連れて行かなくちゃならない。
腕の中のなずなは、冷たくなっていて、顔色も悪くて。
でも、まだ息がある。
すぐに、病院に連れていけば…必ず助かる。
必ず…。
なずなを抱き上げたまま、立ち上がる。
立ち上がると頭がクラッとしてよろけるが、それでも堪えてゆっくりと足を進めた。
病院、救急車を呼ばないと…。



