だが、彼への警戒は解かない。
来るな、と必死に目で訴えながら。
なずなの身体を自分の胸元に引き寄せて、強く抱き締める。
その身を、護るように。
「…こっちに来るな」
「………」
「…来たら、殺すぞ」
その瞬間。
彼の目が見開いた。
そして「なるほど…」と、呟く。
明らかに動揺を見せている彼は、ゆっくりと更に数歩退がる。
俺から目を離さずに。
そして、ゆっくりと足を止めて。
動揺たっぷりの顔で、またフフッと笑う。
「…あははっ。そんなに怒らないでよ?そっちへは行かないから」
「………」
気を許さず、睨み続けていたが。
「君の力が覚醒しちゃうと都合が悪いし?…それに、『来たら』本当に『殺される』からね?」
そして、一人で「あははっ」と笑っている。
すると、閉じていた背中の黒い翼が、バサッと大きく開いた。
「…今日のところは、君に免じて帰る。だけど…」
その翼は上下にバサバサと音を立てて、激しく動き出し。
次第に、彼の周りには風が巻き起こっていた。



