「…なずな、やめろ!今は殺すな!」



背中の方角から、菩提さんの声が聞こえる。

ピリピリと焦りの混じった声が。



「それに、それは禁呪だ!『神童』ではないおまえが使ったら、タダじゃ済まない!」



駆け出す足音がした。



(禁呪…?)



って、素人の俺には詳しくはわからないけと。

言葉のニュアンスと菩提さんの様子から、よろしくないモノであることには、間違いない。



「…離せ!」



しかし、菩提さんの声掛けに一瞬気を取られたなずなは、その隙を突かれて、彼に腕を振り払われてしまう。

「…ちっ!…このっ!」

黒い炎はフッと消え去るが、それでもその手を伸ばそうとする。

「…邪魔だよ!」

彼はそんななずなを振り払って突き飛ばし、なずなはフラッと体勢を崩していた。



「邪魔をするな…!」



彼は翼を短くはためかせ、退がって距離を取る。

そして、何故かまた。

俺の方を見るのだった。



「静かに、そこで待っててね?…『夢殿』?」




…そこからは、ほんの一瞬の出来事だった。




「伶士くん!…なずな、前!」