「…ちっ!」
すると、黒い翼の彼が竜堂に背を向けて逃げ出した。
そして、背中の黒い翼が徐々にワサワサと動き始める。
「…拉致があかないね!」
そう言い捨てた彼の足が宙に浮き始めた。
翼をバサバサとはためかせ、体を上昇させる。
宙に浮き、遥か上から竜堂を見下ろすカタチとなった。
に、逃げた?
と、思われたが。
竜堂には慌てる様子がない。
「…上昇した!…哲太兄ちゃん、頼むよ!」
「了解了解」
そんな竜堂に手を振り返すのは、俺の横にいる川越さんだ。
しかし、了解と返事はするもの、何もする様子がなく、変わらずにバトルの様子を傍観している。
はて。
翼をはためかせて上昇し、竜堂の手が届かない空中へと逃げた彼。
竜堂は彼から目を離さず、地上から見上げていた。
右手には、拳を作って構えている。
「惑乱せよ…」
キィーンと音をたてて、光の塊の輪を拳が纏う。
その拳を、向けた方向は、宙に浮く黒い翼の彼だ。
「狂い酔え、光流…『闥婆法輪』!」
光が膨らみ、輪が拳を離れ、スピードをつけて彼の方へと放たれた。



