二人で大丈夫ダメの問答をしているうちにも、風がフワリと起こって、黒い羽根が浮き上がる。
風に乗った黒い羽根は、次第に彼の右手へと渦巻いて集まりだした。
また、何かを仕掛けられる。
そう察して、焦りも出てきた。
「…ほら、逃げられるかな?」
そんな俺たちを小馬鹿にしたように微笑んで見ているヤツが憎たらしい。
「…なずな!」
「ダメだ、伶士!ここから逃げろ!逃げれば、私の仲間が助けてくれるから!」
「…ここにおまえを残して?…おまえはどうなるんだよ!」
「…何とかなる!」
何とかなる?…どうもならないんだろ?
おまえの焦った必死な表情見てたらわかる。
だからこそ、俺をここから麗華さんと逃がすことが、今のおまえの懸命な選択。
陰陽師であるなずなの、優先判断。
「…『黒嵐』…」
風が一段と巻き起こる。
翼の風に激しく巻かれる、バタバタという音は、聴覚を支配してきそうなほど煩い。
「…早く、伶士!」
…でも、俺は決断出来ない。
なずなをここに残しておくという、決断を。



