知らんかった。

親父、間に合わないから来ないもんだと思ってたのに。

しかし、正面までお見送りを申し付けるとは、図々しいな。



だが、ここは言うことを聞いてやろうと、舞絵をお見送りするため、会場から離れて一緒にエレベーターに乗る。



「伶士、愛しい姫君には紳士的に優しく接してくださいな」

「…はいはい」

追い説教か。

愛しい姫君…また吹き出しそうになった。



「明日、学校って言ってたけど凌憲たちに会うの?」

「ええ。春休み特別講習なので、皆さんいらっしゃいます」

「…よろしく言っといて」

「ええ」



エレベーターを降りて、舞絵と並んで正面玄関に向かう。

外にはすでにお迎えの車が横付けされていて、桜谷家の執事がドアを開けて待っていた。



「それでは伶士、ごきげんよう」

「はいはい。ごきげんよう」



思わず口調が移ってしまった。

しかし、そこに気付かれることなく、舞絵は車に乗り込み、執事が丁寧にドアを閉めて俺に礼をしていく。



舞絵がお手振りする中、桜谷家の車は発進していき、帰路につくのを見送った。