テテュスの箱舟

どれくらいの時間そうしていたのか

ヴァレンティーナはレッドの腕に抱かれて、夜の船上から星空を見上げていた

時折話をしながら、笑い合いながら


ポツリと零れた雨粒に、ふと我に返る
なにやら物凄く恥ずかしいことをしてしまった気分だ

「…雨、降ってきたな。」

甲板に打ち付ける雨音は次第に大きくなっていく
季節の変わり目ということもあり、海上の天候は変わりやすい

「おーい、酷くならんうちに中入れよー」

甲板の入口からジークが顔を出す
船内ではまだ酒盛りが行われていたようだ

帆船の甲板には排水設備が備わっている
荒波を被ったり雨に降られた時の浸水を防ぐ為、側面の溝を伝って外に排水される仕組みだ
甲板はこの防水仕様のため毎日綺麗に磨かれワックスがかけられる

当然、水に濡れるとツルツル滑り、目が効きにくい夜はなおさら危ない
レッドはヴァレンティーナの手を引き、船内へと戻った