デッキには湿った海風が吹き込み、温まった身体を冷やしてくれる

「うーん、やはり気持ちいいわね。
私、ずっと海に憧れてましたの」

「そうなのか」

「ええ。私の家からは海が見えるのよ。」

いつも眺めていましたわ、とヴァレンティーナは呟いた

部屋を出る時に下ろしたヴァレンティーナの髪が時折風に靡いて、それすらも神秘的に見える

「海が見える家か、いい所に建ってるんだな」

「港から少し登った丘にありますの。
庭からは海が見えて、いつもそこでお昼寝しては侍女に怒られていたわ」

彼女は自ら家出をした割に伯爵家に対しては悪い感情は無さそうに思う
単なる気まぐれか、それとも弱味を見せないだけか

「庭で昼寝する令嬢なんて聞いたことねえな。やっぱりヴァーリャはお転婆娘で間違いなさそうだ」

揶揄うように言うと彼女は少し頬を膨らませた