ヴァレンティーナは機嫌が悪かった
形の良い翡翠色の瞳とふっくらとした色づきの良い唇を歪ませ、これでもかというほど不機嫌オーラを振りまいていた
理由は明確。
「はあ、なんだって私があんな男と…」
ディラン大公爵家のラインハルトといえば、夜会等で見かける度にヴァレンティーナに声をかけてきた青年だ
イルミア国王家の血筋を濃く継ぎ、現在の王の従兄弟にあたるのが現在の当主、オルガ・ディラン大公爵だ
その嫡男であるラインハルトは整った容姿に家柄の良さも相まって、年頃の令嬢達の間では人気があった
しかしどうもヴァレンティーナは彼のことが好きになれなかった
嫌いというより絶望的に相性が悪いのだ
「お嬢様、殿方の前でそのようなお顔をされてはいけませんよ」
「わかってるわよマリー。
今のうちに悪態をつきたおしておくのよ、本人を目の前にして思わず本音が漏れないようにね。」
そうはいっても大公爵家からの縁談自体は断る理由はない
どれだけ相性が悪かろうが、格上の家から声をかけられることは伯爵家にとってメリットしかないのだ
