彼の手が髪を掬っては捻り、また髪を掬う感覚がわかる

ヴァレンティーナは少し後悔していた

勢いで家出してみたはいいものの、身支度さえ1人で出来ないヴァレンティーナは迷惑をかけてばかりだと思う

今まで侍女に任せきりで今度はレッドに任せるなんて身勝手もいい所だわ

「ヴァーリャ、これでいいか?」

手先が器用らしいレッドは初めて触る女性髪でも、難なく結わえる事が出来たみたいだ

鏡がないので全容は分からないが、頭に触れて確認すると丁寧に纏めてある事に気付いた

「凄いわ、レッドさん。ありがとう。」

髪を纏めている簪は昨日ラインハルトから贈られた物だが、他に代わりがないので仕方なく使用している

大公爵子息からの高価な贈物を汚してはいけないというのは建前で、本音はあのいけ好かない男からの贈物を易々と身につけたくないだけである