「ちょっと手荒な真似するけど、ごめんな」

それからの出来事はあっという間だった


乗組員達が出航の準備を着々と進めていると、その様子を嗅ぎつけた検問官が駆け付けて来る

許可証を取っていないというのはどうやら本当のようで、不正入港に続き、不正出港まで取り逃す訳にはいかないと、血相を変えて役人達は船に乗り込んで来るつもりの様だ

「来るな。この女がどうなってもいいのか」

もはや定型のような脅し文句に、役人たちはピタリと足を止めた

ヴァレンティーナに気づいた彼らは途端に青ざめ、あたふたと取り乱す

「ヴァレンティーナお嬢様、何故貴女が…」
「誰か早く伯爵家に連絡しろ!」

「ちょっと、情けないんじゃないかしら。
貴方達」

人質を傷つけるわけにはいかないとは言え、不正を止めることが出来ずただ見守るだけというのは余りにも滑稽だ


その隙にレッドはボラード(船を港に留めるための杭のようなもの)に固定された縄を手早く解き、船はゆっくりと動き出した