「違う。」
「え、私は何のために連れてこられたのですか…?」
その問いに答えたのは奥の船室から出てきた大男だった
周りの船員の態度を見るにこの船の船長と見受けられる
「お前さんの考えそうなことだ、関所でまたゴタゴタするくらいなちょっとだけお嬢さんを借りてパスさせてもらうって算段なんだろう?」
関所というのは入港や出港の際に許可証を確認する検問官のことをさしているのだろう
レガート伯爵領において入出港するにはヴァレンティーナの父親であるレガート伯爵の許可が必要だ
もっとも、紙切れ一枚で済む上、今では形式的な物に成り下がっているが
「もしかして、不正入港されてるんですか?この船」
「海賊が港に乗り込むのに一々許可なんて取ると思うか?」
伯爵令嬢としては黙認しておくわけにはいかない事態だが、あまりにも悪びれもせず言い切るレッドに、それもそうかと納得してしまう羽目になった
