ボーダーライン。Neo【下】


 ◇ ♂

 過去の交際をバラされてから、一週間を重ねていた。

 ネット掲示板への書き込みは、僕と交際相手であるS子を罵倒するものばかりだ。

 ‘裏切られた気分’

 ‘略奪サイテー’

 ‘そんな事する人だったなんて’

 ‘元教師も最悪’

 ‘モラルのカケラもない’

 ‘元教師にたぶらかされてる’

 勿論僕の人気は落ちるところまで落ちた。ウェブニュースでも大きく叩かれ、(れっき)とした低迷期を迎えていた。

 そんな中、僕が日々思うのは幸子の事で、彼女の心が気掛かりだった。

 僕と幸子が歩んできた過去。幸子が婚約破棄をされるまでの経緯(いきさつ)

 それらプライベートが明るみに出た今、彼女が何を感じ、何を思っているのか、僕は不安と心配に押し潰されそうで、その度に電話を掛け、近況を訊ねていた。

 “New Hour”という雑誌で新事実を公表された日、幸子の家に当雑誌の記者が訪ねてきたらしい。

 最初こそ、幸子は僕に心配をかけまいと、いつものやせ我慢でうそぶいていたが、僕の追求に観念し、記者から取材を頼まれたと告げた。

 以来、幸子は記者に怯え、また家に引き籠もっているみたいだが、その記者が再訪した形跡は今のところは無いらしい。

 最悪、記者の訪問が有ったとしても、ちゃんと追い返すよう母親に強くお願いした、だから大丈夫なのだと幸子は明るく振る舞っていた。

 このまま何もせず、世に出回った悪評が風化される時を待つべきか。

 はたまた自らが事実を公表し、幸子との関係を認めて貰えるよう努めるか。

 僕の答えは後者だ。

 最初にすっぱ抜かれた三流雑誌に続き、今では大手出版社の雑誌二誌でも、被害男性Kさんによって、過去の交際の事実が語られている。