『ですよねぇ? 児童に対し「性的な事」をすれば、条例違反に問われる可能性がある。また「性的なこと」をしていなくても、地方公務員法違反として処罰される可能性がある。
そこを近年の若い教育者達はしっかり理解していないんじゃ無いでしょうか?
見つからなければ交際してもいい、と勘違いしているから、結果として社会的非難を浴びるわけです』
ーー分かってる、そんなの分かってるよ。
あたしは眉間を歪め、ディスプレイを睨んでいた。まさに針の筵に立たされた気分でそれらを聞いていた。
過去の交際期間を思うと、これらの教育論は全て自分に向けられた言葉だ。
言い訳をするみたいだけど、こんな建前は誰にでも言える事で、全部が綺麗事だ。
当事者にならなければ、その教師の苦しみなんてこんな堅物たちに分かるはずが無い。
ガヤガヤと騒々しいテレビ音声が、しかしながら、プツン……と急に音をなくした。
ーーあれ?
不思議に思い、上を見上げると、リモコンを手にした母と目が合った。
「なんて顔してるの、もう過ぎた事でしょう?」
「お、母さん」
「世間から大きく騒がれるのは、それだけ彼が有名だっていう証拠。
その努力を、あんたが理解しないでどうするの?」
母は呆れた顔で嘆息し、手にしたリモコンを机上に置いた。
「ほら、ぼさっとしてないで、晩御飯の支度手伝って? 今日は由美ちゃん、帰りが遅いみたいだから」
あたしは手の甲で目尻を拭い、はぁい、と言って立ち上がった。顔に僅かな笑みを浮かべながら。



