頭を抱えたままで、ため息をつく母を見て、またガッカリさせたなと眉が下がった。
「幸子は。お母さんが怒ると思って、言えなかったのよね。あんたは昔っからそう。私や他人の顔色を窺って、言いたい事の半分も言ってくれない。
でも。そんな娘に育てたのは私だから……辛い思いをさせたのは私のせいね」
幸子、ごめんね、と言って母は優しく微笑んだ。
胸が熱くなった。
ううん、と涙を滲ませながらかぶりを振る。母は穏やかな口調で言葉を続けた。
「昔の事がバラされたのは、確かに辛い事だと思う。もうこれ以上は無いって秘密を世間に晒されるのは、精神的にも参ると思う。
でもね、彼との結婚を考える上では、そんな秘密なんか無い方が、幸子にとってはあとあと楽なんじゃないかしら?」
「……え」
「何でもね、良い方向に考えなきゃ。幸子にはお父さんもお母さんも、それに悠くん達もいるんだから。
大変な今、無理して家を出る事も無いのよ? 後の事は彼との問題に一段落が着いてから考えれば良い」
そう言って、肩にポンと手を置くと、母はキッチンにグラスを運んだ。
やっぱりお母さんは、あたしを育てた親だけあって、何でもお見通しだ。
過去を隠そうと躍起になればなった分、秘密を暴こうとする人たちは現れる。秘密を抱えたままで、たとえ結婚生活を送れたとしても、きっと安らかな日常は訪れない。
だから、現在は辛くても、これを乗り越えさえすれば、もう怖いものなんて無くなる。
ふと、床に落としたコンビニのレジ袋が目についた。
ーーお母さん。あたしが買ってきた仕事情報誌も見たんだ。
そう思うと、小さな笑みがもれた。



