ボーダーライン。Neo【下】


 頭を抱えたままで、ため息をつく母を見て、またガッカリさせたなと眉が下がった。

「幸子は。お母さんが怒ると思って、言えなかったのよね。あんたは昔っからそう。私や他人の顔色を窺って、言いたい事の半分も言ってくれない。
 でも。そんな娘に育てたのは私だから……辛い思いをさせたのは私のせいね」

 幸子、ごめんね、と言って母は優しく微笑んだ。

 胸が熱くなった。

 ううん、と涙を滲ませながらかぶりを振る。母は穏やかな口調で言葉を続けた。

「昔の事がバラされたのは、確かに辛い事だと思う。もうこれ以上は無いって秘密を世間に晒されるのは、精神的にも参ると思う。

 でもね、彼との結婚を考える上では、そんな秘密なんか無い方が、幸子にとってはあとあと楽なんじゃないかしら?」

「……え」

「何でもね、良い方向に考えなきゃ。幸子にはお父さんもお母さんも、それに悠くん達もいるんだから。
 大変な今、無理して家を出る事も無いのよ? 後の事は彼との問題に一段落が着いてから考えれば良い」

 そう言って、肩にポンと手を置くと、母はキッチンにグラスを運んだ。

 やっぱりお母さんは、あたしを育てた親だけあって、何でもお見通しだ。

 過去を隠そうと躍起になればなった分、秘密を暴こうとする人たちは現れる。秘密を抱えたままで、たとえ結婚生活を送れたとしても、きっと安らかな日常は訪れない。

 だから、現在(いま)は辛くても、これを乗り越えさえすれば、もう怖いものなんて無くなる。

 ふと、床に落としたコンビニのレジ袋が目についた。

 ーーお母さん。あたしが買ってきた仕事情報誌も見たんだ。

 そう思うと、小さな笑みがもれた。