「……そうだったんだ」
「……うん」
「でも。やっぱり、お母さんは悪く無いよ。あの時……あたしがちゃんとお母さんと話し合わなかったから、お母さんは彼の事を誤解したんだと思う。
あの時ね? 結婚したくて仕方なかったのは、彼じゃなくてあたしの方なの」
「……え?」
母は意外そうな顔で、目を見張った。
「あの頃から檜はプライベートに忙しくて、会う時間も余り取れなくて。一緒にいるためには、もう結婚するしかないって思い込んでた。
挨拶の時には怖くて言えなかったけど、あたし、あの日の一ヶ月ぐらい前に流産してたの。出来ちゃった結婚をしようと思いついて、バチが当たって、稽留流産だってお医者さんに言われた。
寂しくてどうしようも無くて、あの頃のあたしは……本当に檜が全てだった。
そんなあたしを思いやって、彼が結婚しようって言ってくれたの。その為に親に挨拶をしに行くって言ってくれて……」
あの頃を思い出すと、自然と唇が震えた。
辛かった。だからこそ、檜が実家に来てくれて本当に嬉しかった。
檜の気持ちが嬉しくて、現実的な事に、ただただ頭が回らなかった。
「……そうだったの」
母は両手で頭を抱え、黙り込んだ。
「お母さん、ごめんね。ちゃんと話さなくて、……ごめんなさい」



