ボーダーライン。Neo【下】

「わたし。あのデータは幸子さんにしか見せて無いし、すぐに写真も削除したっ」

 動揺する彼女を見て、僕は、あ、と口を開ける。

「そっか。茜は知らないんだよな? あの写真、間接的に拾われて。学校中にばらまかれたんだ」

「……え」

「それで幸子は辞職して、俺たちは別れた」

 元後輩である女子生徒の一件を簡略化して伝えたのだが、茜はその内情を悟った様に、何も訊かなかった。

「そんなの、知らなかった」

 ただそう一言漏らし、わたしのせいで、と呟く。

「茜のせいじゃないよ」

「え……」

「あの時は別れに繋がるまで、本当に色々な事が有ったんだ。だから俺は、今さら茜を責める気なんて」

「やめてよ……っ!」

「え……」

「檜は知らないからっ」

「知らない?」

 僕のオウム返しに、茜は無言で頷いた。手にしたペットボトルをギュッと握り締め、未だ蓋も開けようとしない。

 きっと、僕にとって重要な事実を告げようとしている。そう感じ取った。

「わたしは去年。檜の部屋で見つけたメモを、勝手に持ち帰ったの」

 ーーメモ。

「檜と関係を持ったあのいかがわしい内容を見て……、つい。カッとなった……っ。本当にごめんなさい」

 メモと聞いて思い浮かぶのは、幸子が部屋で書いたあの書き置きだ。

 肩をすぼめる茜を見つめながらも、僕はひとつの可能性に気が付いた。