ボーダーライン。Neo【下】


「……檜はさ」

「うん?」

「いつから彼女の存在に気付いてたんだ、って。わたしに何も訊かないんだね?」

「え」

「幸子さんの事」

 哀愁を帯びた瞳で、茜は意味深に笑う。

「わたし、檜に謝らないといけない事が二つある」

 目を伏せた彼女に、僕は自然と首を捻った。

「彼女から聞いてもう知ってるかもしれないけど。わたし……幸子さんに直接会って、檜と別れるようにって。過去に別れを強要した事がある」

 僕は、ああ、と息をついた。

「それらしい事はチラッと聞いた」

 ーーロンドンで。

「でも。幸子から聞く以前に、茜があの写真を撮ったっていうのは分かってた。知ったのは去年の暮れだけど」

「え。写真??」

 次に首を傾げるのは茜だ。

「しゃ、写真って何の??」

 話がかみ合わない事に、どことなく違和感を感じるが、もう何年も前の事なのでそれも仕方ないかと嘆息した。

「昔の話を蒸し返すようで悪いけど。初めてやったワンマンライブの後、俺と幸子が抱き合ってる写真を……茜、携帯で撮ったよな?」

 確認するように目を据えると、茜は大っぴらに狼狽えた。

「だ、だけどっ。でも……っ」

 言葉を詰まらせ、目を左右に泳がせている。