扉を開けてすぐ、誰かとぶつかりそうになる。突然の事に面食らい、僕は彼女を見てピタリと動きを止めた。
「……あの、檜。ごめんね? 今の話、聞いちゃって」
「茜……」
扉越しに立っていたのは上河 茜だった。
彼女は俯き、手にしたクリアファイルをギュッと握り締めている。
「いま。ちょっと話せないかな? どこか二人だけで」
茜の急な誘いに、え、と狼狽えた。
「それは……構わないけど。茜も社長に用が有ったんじゃ?」
「あ、うん。そうだけど。別に急ぎでもないから」
言いながら茜は目を逸らし、ぎこちなく笑った。
同じ階にある休憩室の扉を開け、誰もいない事を確認する。
およそ四畳のスペースしか無いそこは、向かい合わせのソファーと、灰皿の置いた机があるだけだ。
「一週間の謹慎、大変だったね?」
言いながら茜はソファーに座り、その向かいに僕も腰掛けた。
「彼女の方は……大丈夫?」
チラリと茜の目線が飛んでくる。それと共に、前もって外の自販機で買っておいたペットボトルの水を渡された。
「ああ、うん。今のところ、特に影響は無いみたい」
「そっか」
幸子を話題に出すという意味から、二人だけで話がしたいと言ったんだな。
茜の意図を理解し、ペットボトルの水を一口飲み込んだ。



