でもそれは幸子に関しての情報だ。僕が一緒にいるかどうかなんて、あの男が知り得るはずもない。
そうは思うものの、疑う余地はあった。
何らかの手段を使って、万が一にも僕のスケジュールが漏れていたとしたら、カサイは僕をはめる事ぐらいやってのけるだろう。
カサイに脅迫されてからその後、僕は携帯の番号を変え、完全に知らないふりを決め込んだ。写真などの直接的な証拠が無い上、あのメモすらカイが燃やしてしまったので、勿論、脅された慰謝料も払っていない。
幸子との結婚をぶち壊しにした上、完全に責任逃れをしている状態なので、きっと物凄く恨みを買っているはずだ。
『檜?』
沈黙を訝しみ、幸子に名を呼ばれた。
「え? ああ、うん。ごめん。その後、そのカサイさんって人から連絡は無いの?」
『あ、うん。全く』
「じゃあ~。もしかしたら、もう会う必要が無くなったって……そういう事かも? 気にする事ないよ」
『……うん、そうだね』
ごめんね、こんな話、と幸子は続け、僕の仕事に関する話題へ変えた。
一週間の謹慎が解け、事務所に出勤すると、僕は迷う事なく社長室へ向かった。
今回のスキャンダルに対する謝罪がメインだが、それだけで終わらず、幸子との交際の事実をありのままに親告した。
その上で結婚する事を認めて欲しいと願い出る。僕としては不運な状況を逆手に取り、結婚の許しを得るつもりでいた。



