ボーダーライン。Neo【下】


 でもそれは幸子に関しての情報だ。僕が一緒にいるかどうかなんて、あの男が知り得るはずもない。

 そうは思うものの、疑う余地はあった。

 何らかの手段を使って、万が一にも僕のスケジュールが漏れていたとしたら、カサイは僕をはめる事ぐらいやってのけるだろう。

 カサイに脅迫されてからその後、僕は携帯の番号を変え、完全に知らないふりを決め込んだ。写真などの直接的な証拠が無い上、あのメモすらカイが燃やしてしまったので、勿論、脅された慰謝料も払っていない。

 幸子との結婚をぶち壊しにした上、完全に責任逃れをしている状態なので、きっと物凄く恨みを買っているはずだ。

『檜?』

 沈黙を訝しみ、幸子に名を呼ばれた。

「え? ああ、うん。ごめん。その後、そのカサイさんって人から連絡は無いの?」

『あ、うん。全く』

「じゃあ~。もしかしたら、もう会う必要が無くなったって……そういう事かも? 気にする事ないよ」

『……うん、そうだね』

 ごめんね、こんな話、と幸子は続け、僕の仕事に関する話題へ変えた。




 一週間の謹慎が解け、事務所に出勤すると、僕は迷う事なく社長室へ向かった。

 今回のスキャンダルに対する謝罪がメインだが、それだけで終わらず、幸子との交際の事実をありのままに親告した。

 その上で結婚する事を認めて欲しいと願い出る。僕としては不運な状況を逆手に取り、結婚の許しを得るつもりでいた。