最後は独り言のように呟き、母はお風呂場に向かった。
慎ちゃんがあたしに渡したいものって何だろう? 今更だけど、貴重品だけでも私物を返してくれる、とか?
でもそれだったら、前と同じように手紙に書いて送る方が彼らしいし、わざわざ急を要して渡さなければいけない物でもない。
変だなと思った。
リビングの扉を開け、ソファーに腰を下ろすなり、ドッと疲れを感じた。
「あ。お帰り〜? 姉ちゃん」
五つ下の弟、悠大が棒アイス片手に呑気に言った。
「ただいま……ってか。悠大、今日休みなんだ?」
「ああ、うん。……あ! 夕方由美を迎えに車出すけど、姉ちゃん使わないよな?」
「うん」
ーーあの騒ぎのせいで当分出掛ける気分にもなれないだろうし。
あたしは平たい息を吐き出した。
弟の言う由美ちゃんとは、あたしの義理の妹で、イコール、悠大のお嫁さんの事だ。悠大は去年、二十六歳という若さで結婚し、今親と一緒に住んでいる。
そんな実家に婚約破棄をされたあたしが一時的にでも帰って来ている。正直、出戻り感が半端ない。
悠大が棒アイスを食べ終え、そのまま棒をローテーブルに置く仕草を見て、あたしはジトッと奴を睨んだ。
「ちょっと! ちゃんとゴミ箱に捨てたら?」



