◇ ♂

「帰国して早々、何だ、あの騒ぎは!?」

 僕と竹ちゃんの目の前で、社長は怒りに任せてバンと机を叩いた。

「そもそも、女性と居ながら何で同じ便で帰国した!? アーティストとしての自覚が無いのか!?」

「……申し訳ありませんでした」

 あの後。

 僕は逃げるように幸子の手を引き、タクシー乗り場へと走った。

 丁度空いていたタクシーに彼女だけを押し込み、直ぐに車を出して貰った。

 残されたスーツケースを二人分運ぶため、竹ちゃんに連絡を入れ、今しがた配送の手続きを終えたところだ。

 そして現在、事務所の社長からお叱りを受けている。帰国の騒動で慌ただしくしている間、社長宛に空港内の騒動を録画した映像が、とある出版社名で送られてきたそうだ。

「とにかく、また一週間は缶詰になるからな!? 話はその後だ。竹原、直ぐに檜を連れて行け!」

「わ、分かりました……っ」

 物凄い剣幕で怒る社長を尻目に、僕はもう一度だけ頭を下げた。



 四ヶ月前。笹峰さんとの熱愛を報じられた時と同じビジネスホテルに連れて来られた。

 暫くの間は自宅マンションにも帰れない事を告げられ、溜め息がこぼれた。生活に必要なものはその都度竹ちゃんが部屋から運んでくれるらしく、僕は大人しくその方針に従った。