僕の好きな愛らしい笑みを見つめ、釣られて笑い返した時。

 目の端にフラッシュの光源を感じた。

 ーーえ?

 それが正面からだと気付いた時には、もう手遅れだった。

「ホントだ。本当に現れた……っ!」

 興奮混じりに言いながらも、目をぎらつかせた若い男が、連続してフラッシュをたいている。

 ーー記者……!!

 突如として冷水を浴びたように、僕は全身が凍りつくのを感じた。

 ーーしまった……っ!

 反射的に僕は幸子の前に立ちはだかり、後ろ手に彼女を隠した。変装も何もしていない自然体で、一般人の幸子が、写り込む事だけは避けたかった。

「やめろ! 撮るな!」

 そんな事をしても無意味なのに、カメラに手の平を向け、記者の男を制した。

「良いね良いね〜、Hinokiのスクープいただきだっ!」

 嫌らしく笑う男に恐怖を募らせ、幸子は僕の背中で震えている。

 一人の記者から連鎖し、やがては周囲のざわめきが耳に入ってくる。

「え?」

「……なになに?」

「何かあったの??」

「――えっ?!」

「うそぉッ! あれってもしかしてFAVORITEのHinoki!?」

「――キャーーッ!」

「ちょっと! 誰よ、あの女ーっ!!」

 驚きと衝撃を顕わにした叫びが、通路の先のフロア中を、あっという間に埋め尽くしていく。逃げ道など、最早どこにも用意されていなかった。

 誰も知らない異国の地で、心を通わせ愛し合った日々は、こうして幕を閉じたのだった。


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