「この間は教え子の生徒さんとか、歳の差を心配して言ったけど。
芸能界って不安定な職業じゃ、やっぱり幸子との結婚は認められないわ。……もちろん交際もね」
突如、頭を鈍器で殴られる様な衝撃が走り、目の前が暗くなった。
今まで信じて疑わなかった道のりが、高い壁に塞がれた行き止まりで。袋小路に迷い込んだまま、這い上がる術もない。
僕は意を決し、それじゃあ、と畳に両手をついた。
「アーティストになる夢を諦めます!」
「は?」
「卒業したらちゃんと働いて、お母さん達に結婚しても良いと思って貰えるように、頑張ります!」
「ええ??」
「だから付き合う事だけは許して下さい! 幸子と別れるなんて、そんなの考えられませんっ」
頭上から大きなため息が降ってくる。頭を上げて下さい、と呆れた声と共に。
「諦めるって。アーティストになるのが子供の頃からの夢なんでしょう? そんな捨て鉢に言われても困ります」
「……っ」
「第一、何の仕事をして生計を立てるおつもりですか?
今の世の中、どこも学歴社会だし。高卒で働いても微々たるお給料しか貰えないんですよ?? そんなの、いつか離婚するに決まってる」
「…そ、れは」



